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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1105号 判決

原告

山崎通子

外三名

右原告ら四名訴訟代理人

永田雅也

外二名

被告

片山博昭

被告

館野運輸株式会社

右代表者

館野弘

被告

近畿交通共済協同組合

右代表者

北畑芳蔵

右被告ら三名訴訟代理人

木村保男

外六名

主文

一  原告らの請求をすべて棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

第一事故の発生

〈証拠〉を総合すると、次の各事実を認めることができる。

一本件交差点及びその付近の状況

1  本件交差点は、大阪市淀川区東三国六丁目一番三号(後記第一、第二事故当時同市東淀川区東三国町三丁目一八七番地)先に所在し、東西道路と南北道路とが交差する交通整理の行なわれていない部分であり、付近は最高速度として時速四〇キロメートルに制限されており、車両の交通量は少なく、ことに夜間午後九時頃からの車両交通量は少ない(本件事故後間もなくの翌九日午前〇時半頃から二〇分間の車両交通量は東西六台、南北七台であつた。)

2  東西道路の幅員は、本件交差点西方が九メートル、東方が一一メートルであり、東西ともにセンターラインによつて西行車と東行車とに区分されており、また、同交差点東方道路北端は、西方道路北端を同交差点東方に延長した線(以下西方北端延長線という。)より約3.3メートル北方に引つ込んでいること、他方、南北道路の幅員は、本件交差点北方が八メートル、南方が一一メートルであり、また、同交差点南北の手前にはそれぞれ一時停止の道路標識が設置されていること。

3  本件交差点付近の東西道路及び南北道路は、いずれも平担で、かつ概ね直線であるため、西方から及び南方から同交差点に進入する車両運転者にとつて、道路の地形上前方(後記甲車の駐車場所付近を含む。)の見通しは良好であつたが、左右の見通しは、交差点角に民家、トタン塀等が所在し、かつ、後記第一、第二事故(以下これらを本件事故ともいう。)当時東西道路右側交差点手前付近及び南北道路交差点手前付近に各二台の車両が駐車していたため、これらに遮られて悪かつたこと。

二甲車の駐車

被告片山は、昭和四九年二月八日午後一一時五五分頃本件交差点の東側端から東方約22.5メートル(ただし、甲車の後面中央部まで、東方道路北端に平行して測定した距離)の道路(同市淀川区東三町国六丁目一番三号先道路)上に該道路北端に沿いこれに近接して(同北端から甲車右側面まで二、三メートルである。)。甲車(普通貨物自動車、大阪一一き三二四七号、車長7.51メートル、車幅2.16メートル、高さ2.27メートル)を、車首を東方に向けて駐車させていたこと(被告片山が右日時に右地番先道路上において甲車を駐車させていたこと自体は当事者間に争いがない。)。

三本件事故の発生

右日時頃本件交差点ほぼ中央で、前記西方北端延長線の南方約四メートルの地点(甲第七号証現場見取図中×参照)において、西から東に向けて直進すべく高速度で進入してきた孝一運転(孝一が自動車を運転中であつたことは当事者間に争いがない。)の孝一車(小型貨物自動車、大阪四四め三八〇〇号)右側部と、南から北に向けて直進すべく時速約五五キロメートルで進入してきた呉運転の乙車(普通乗用自動車、大阪三す八四六六号)前部とが衝突した(以下これを第一事故という。)ため、孝一車が暴走し、(第一事故後孝一車は東北東に進行したが、その後の経路がどのようなものであつたかは後記のとおり確定し難い。)。同車前部が右第一事故の衝突地点から東北東29.9メートルの地点(同見取図中×甲参照)に前記のとおり駐車中の甲車右後部に激突(追突)した(以下これを第二事故という。)結果、孝一は孝一車から放出されたこと、以上の各事実が認められ、前掲甲第一三号証中乙車が時速五〇キロメートル以下で本件交差点に差し掛かつた旨の供述記載部分は、〈証拠〉に照らしやすく措信し難く。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、被告らは、甲車の駐車と第二事故発生との間の因果関係の存在を争い、まず、甲車が駐車していなければ、孝一車は第二事故現場近くの電柱ないし塀に激突して同事故以上の事故発生が不可避である旨主張する。成程、〈証拠〉及び当事者間に争いのない事実によると、第二事故現場の北側には、車道より一段高い位置に存する幅員約2.5メートルの歩道を隔てて国鉄アパートのプロツク塀(高さ1.96メートル)が、また前記駐車中の甲車助手席北側で右歩道南端にはコンクリート製電柱がそれぞれ設置されていることが認められる。また、前認定の本件事故態様に徴すれば、孝一車は相当高速度のまま、第一事故の衝突地点からみて結果的に東北東方向に暴走して甲車右後部に激突したこと自体は明らかである。しかしながら、孝一車の暴走中の具体的な経緯、車体の向き、制禦及び制禦力の有無等については、前認定第一事故現場と第二事故現場との位置関係、孝一車及び乙車の速度、第一及び第二事故の関係車両の各衝突部位その他の客観的な事故事情によつては直ちに断定することは困難であり(なお、〈証拠〉によると、前記第一及び第二事故の各衝突地点のほぼ中間付近から第二事故の衝突地点付近に向かつて孝一車のものと考えられる三条のタイヤ痕が残されており(前記現場見取図中タイヤ痕参照)、これらタイヤ痕の形状、位置関係からすると、孝一車は第一事故後車首を真つ直ぐ東北東に向けて第二事故の衝突地点に直進したものではなく、第一事故によつて後部を右に振られ、右斜めになりながら車首を東北東のちには東北に向けて走行し、第二事故の直前ではほぼ東方に転じた疑いも存するが、これも必ずしも明確でない。)、他にこれらを認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、甲車が駐車していなかつた場合、孝一車はいずれの方向に暴走を続けるものかは不明というほかないから、被告らの前記主張は理由がなく、採用することができない。

次に、被告らは、他事故によつて制禦力を失つた他車両が駐車中の甲車に衝突することは通常あり得ない旨主張するところ、本件事故当時現場付近の交通量の少なかつたことは前記のとおりであるが、しかし甲車が駐車していなければ、第二事故は発生しなかつたもので、前認定の本件交差点付近の状況、本件交差点と甲車の駐車場所との位置及び距離関係に現下の一般的な交通事故発生状況、車両の具有する性能等の事情を合わせ考えると、本件交差点から甲車程度の距離を有する道路上に車両が駐車していた場合において、本件交差点内で衝突事故を起こした他の車両が暴走して右駐車車両に衝突する虞れのあることは通常考えられないことではないものと解するのが相当である。そうすると、甲車の駐車と第二事故発生との間には相当因果関係があるものというべきであり、したがつて、被告らのこの点に関する前記主張も理由がなく採用することができない。

第二責任原因

一被告片山

一般不法行為責任について

〈証拠〉を総合すると、以下の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  駐車時間

被告片山は、事故当日勤務終了の午後九時過頃暫時甲車を自宅前の第二事故現場に駐車させたうえ、自宅において夕食をとつたり、テレビを見たりして過ごした後、同車を駐車場に格納しようと考えていたところ、偶々本件事故が発生したこと、第二事故現場の道路部分は、道交法四九条一項所定の時間制限がされていなかつたこと。

2  駐車場所

被告片山は、甲車を本件交差点の東側端から東方約22.5メートルの道路部分に駐車させたものであることは前認定のとおりであるところ、同車右側の道路上にはセンターラインまで3.2メートル、道路南端まで8.7メートルの余地があり、また、同駐車場所は道路標識等によつて駐車を禁止されておらず、かつその他の駐車禁止場所にも該当しないこと。

3  駐車方法

被告片山は、甲車を道路の左側端に沿いこれに近接して駐車していたものであるところ、西方からの駐車道路付近への見通しは良好であり、かつ本件交差点東方道路北端は前示西方北端延長線より約3.3メートル北方に引つ込んでいることは前認定のとおりであり、右各事実と前述甲車の駐車場所と本件交差点との距離及び位置関係、甲車右側の道路上の余地等の事情とに徴すると、被告片山は他の交通の妨げとならない方法で甲車を駐車していたものであるといえること。

4  燈火等

被告片山は、幅員一一メートルの道路上に非常点滅表示燈駐車燈又は尾燈等の燈火(以下尾燈等という。)のいずれをも点燈せずに甲車を駐車していたものであるところ、同被告が所定(道路運送車両の保安基準四三条の三)の警告反射板を表示していたことは認められず、また、本件事故当時右駐車場所付近には道路(高速自動車国道又は自動車専用道路ではない。)両側に所在する国鉄アパートの燈火の照明及び第二事故現場より東西道路上東方3.40メートルの新御堂筋線の外燈の照明があつたものの、これらの照明は乏しかつたこと、しかし、甲車の後面左右の見易い位置には後部反射器が備えられていた一方、孝一車は本件事故当時その前照燈を点燈していたところ、右甲車(昭和四八年一一月三〇日以前に製作された。)の後部反射器は、夜間後方一〇〇メートルの距離から前照燈による反射光を確認できる性能を有していたものであり(同保安基準三八条三号、五八条二項一八号参照)、かつ、右孝一車の前照燈はそのすべてを同時に照射したときは夜間前方一〇〇メートル、減光又は照射方向を下向きに変換したときは同じく三〇メートル先の障害物を確認できる性能を有していたものであり(同保安基準三二条二項二号、三号、五八条二項二二号参照)、右の事実に徴すると、孝一において、前記国鉄アパートの灯燈等の照明下に駐車していた甲車の後方少なくとも三〇メートルの距離から甲車の存在を明らかに確認しうる状況にあつたといえること、

以上の各事実が認められ、被告片山は、右1によれば駐車時間の制限に関する法規(道交法四九条一項、自動車の保管場所の確保に関する法律五条二項等)に、右2によれば駐車場所の制限に関する法規(道交法四四条、四五条、一、二項等)に、右3によれば駐車の方法に関する法規(道交法四七条二項)にいずれも違反しないものと認められるが、しかし、右4によれば被告片山は燈火等に関する法規(道交法五二条一項、同法施行令一八条二項)には違反しているといえる。しかしながら、前述来認定の事実からすれば、孝一において前記国鉄アパート等の照明並びに孝一車の前照燈の照射とこれによる甲車の後部反射器の反射とによつて甲車の後方少なくとも三〇メートルの地点から甲車の存在を明らかに認知しうる状況にあつて、乙車の本件交差点への進入がなかつたとした場合、同人が右の認知に基づき通常の判断及び操作をしていれば、極めて容易に甲車への追突を回避しえた事情にあつたもので、右の甲車の後方少なくとも三〇メートルの地点において孝一に与えられた運転上の条件(甲車の認識可能性とこれへの追突回避の可能性)は、当時甲車に尾燈等が点燈されていた場合と何ら逕庭はなかつたものということができ、なお、仮に甲車に尾燈等が点燈されていれば、これにより孝一は、前記甲車の後方三〇メートルよりも更に後方から甲車の存在を確認しえたといえるけれども、しかし、甲車の駐車場所及び駐車方法に徴すると、本件交差点西方道路から東進する車両が甲車を回避するために予め走行速度ないし進路を変更する必要は何らなかつたものと解されるから、孝一が右のとおりより早期に甲車の存在を確認しえたとしても、このことによつて、本件のように甲車に尾燈等が点燈されていなかつた場合に比して、第一事故現場に到るまでの孝一の運転方法(走行速度、進路等)に、したがつて、第一事故の発生、態様並びに第一事故現場から第二事故現場に到るまでの孝一の運転方法に格別変更を来たすものとも考えられない。しかるに、以上の事情にもかかわらず、孝一は甲車に追突しているのであるから、右追突の事由が甲車に尾燈等が点燈されていなかつたことに起因する蓋然性は極めて乏しく、第二事故発生の経過からすれば、右追突は、第一事故による衝撃の結果孝一車のハンドル、ブレーキ等の制禦装置が適正に作動しえない状態に立ち至つたか、若しくは、孝一自身が第一事故によつて失神、受傷、動転などの肉体的、精神的打撃を被つたため適正な認知、判断、操作をしえなかつたか、又は、孝一が孝一車を適正に操作しうるのに、ハンドル、ブレーキ等操作の不適当によつて適正な操作をしなかつたか、以上いずれかが、あるいは、これが競合してその原因となつているものであつて、孝一は、甲車に尾燈等が点燈されていてもなお甲車へ追突していたものと推認するのが相当である。したがつて、被告片山が甲車に尾燈等を点燈していなかつたことと本件第二事故発生との間には因果関係はないものというべきである。

ところで、一般に車両運転者が夜間道路上に駐車するに当たつては、交通の安全と円滑を確保する必要上、周囲の道路状況及び交通事情を考慮して他の車両の妨害とならないよう適正な駐車をし、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、前述来認定の諸事実によれば、他に特殊な交通事情の存在等特段の事情の認められない本件においては、被告片山は、夜間道路上に甲車を駐車させるに当たつて前示注意義務を怠らなかつたものというべきであり(尾燈等不点燈については前記のとおりこれと件第二事発生との間には因果関係はない。)、右以上に原告らの主張するように駐車場又は空地などの場所に甲車を駐車すべき義務まではなかつたものと解され、したがつて、被告片山には過失はなかつたものというべきである(本件交差点から甲車程度の距離を有する道路上に車両が駐車していた場合において、本件交差点内で衝突事故を起こした他の車両が暴走して右駐車車両に衝突する虞れがあることは通常考えられないではないことは前に述べたところであるが、本件交差点内で事故を起した車両の右駐車車両との衝突の危険度は相当に低いから、被告片山の甲車駐車は、社会通念上是認されて然るべきで、非難されるべき行為ではないと考えるのが相当である。)。そして、本件全証拠によるも、本件第二事故の発生について他に同被告に何らの過失も認められない。

よつて、被告片山に原告ら主張の不法行為責任は認められない。

二被告会社

1  運行供用者責任について、

被告会社が甲車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであることは、被告会社及び被告組合において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。そして、自賠法二条二項、三条所定の「運行」には本件のごとき道路上の駐車をも含むものと解されるところ、右駐車と本件第二事故発生との間に相当因果関係が存することは前示のとおりである。よつて、被告会社は、自賠法三条により、免責の抗弁が認められない限り、本件第二事故による孝一及び原告らの損害を賠償する責任がある。

そこで、以下被告会社及び被告組合の主張(免責の抗弁)について判断する。前認定のとおり本件交差点は、交通整理の行なわれていない部分であり、東西道路の西方から及び南北道路の南方から同交差点に進入する車両運転者にとつて左右の見通しは悪く、同交差点の南手前には一時停止の道路標識が設置されていたのであるから、呉は、同交差点を南から北に向かつて直進するに当たり、同交差点の直前で一時停止し、かつ、左右の交通の安全を確認して交差点に進入し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があり、また、孝一も同交差点を西から東に向かつて直進するに当たり、徐行し、かつ、左右の交通の安全を確認して交差点に進入し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものと解すべきところ、〈証拠〉によると、呉は、酒気を帯びて乙車を運転していたものであるところ、右注意義務を怠り、一時停止せず、かつ、左右の安全を確認することなく時速約五五キロメートルで同交差点に進入した過失により(本件事故発生について呉に一時停止標識無視の過失があつたことは当事者間に争いがない。)、孝一も前記注意義務を怠り、徐行せず、かつ、左右の安全を確認することなく高速度で同交差点に進入した過失によりいずれも本件第一及び第二事故を惹起したことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。また、本件事故の発生について被告片山に過失が認められないことは前示のとおりである。そして、以上の各事実に本件事故発生の状況に関するその余の前認定事実を合わせ考えると、被告会社の過失の有無及び甲車の構造上の欠陥、機能の障害の有無は本件事故発生と何ら因果関係を有しないことが明らかである。以上によると、被告会社の過失等の有無を論ずるまでもなく、免責の抗弁は理由がある。

よつて、被告会社には自賠法三条所定の運行供用者責任はない。

2  使用者責任について。

被告片山は前示のとおり過失が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく。被告会社に民法七一五条一項所定の使用者責任の生じないことは明らかである。

三被告組合

自動車保険金請求権の代位行使について。

被告片山及び被告会社が前示のとおり本件事故発生について孝一及び原告らに対し損害賠償責任を負担しない以上、その余の点について判断するまでもなく、被告組合は被告片山及び被告会社に対し原告ら主張の保険金支払責任はないことが明らかであり、したがつて、原告らは、自己に損害賠償請求権があるとして右保険金請求権を被告組合に対し代位行使することはできない。

第三結論

よつて爾余の諸点について判断するまでもなく、原告らの被告らに対する本訴請求は理由がないからこれらをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(鈴木弘 大田黒昔生 畑中英明)

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